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今年はずいぶん不倫のニュースが多かったが、やはり店にもこれは怪しいと
思わせるカップルがいる。実際、不倫なのか否か正解を知る機会はないので
自分の憶測でしかない。その上での話だが、一分一秒を争う厨房内での
激務の隙間を縫い、必死の思いで怪しげなカップルを長年ウォッチングしてきた
自分の不倫カップル判断基準はこうだ。
別々で店に入る
別々で店を出る
入り口から一番遠い席に座りたがる
支払いは必ず男性
足がつくので予約はしない
自分の持ち場がホールなら、もう少し挙げられそうだが、これだけでも
怪しさを感じるには十分だ。これら判断基準をクリアした訳ありそうな男女が
現れては消え、現れては消えていった。そして2017年現在、これは間違いなく黒
という常連客がいる。男性は50歳前、女性は32~34歳のカップルだ。
土曜日。彼らは別々に、そして必ず時間をずらして店に入る。定石どおり
入り口から一番遠いカウンター席が決まりの席。かわいいがどこか暗い印象の
女性と、明るく豪快そうな男性。彼女は私たちに微笑みを向けることはないが
男性の横では声を出して笑う。なるほど楽しそうだ。そして食事を済ませ店を出ると
すぐさま女性は右、男性は左へ振り返りもせず去っていく。
厳しい注文をこなしながら毎回彼らの去り際を確かめるのだが、一度たりとも
例外はなかった。明らかに人目を忍んでの行動だ。それを見て黒を再確認する自分。
またそれを見て「お前どこ見てんだ」とどやす店主(配偶者)。
これが毎週土曜の習いとなっている。
今月、彼女の方が先に店に入ってきた時のことだった。店内を見渡し男性が
いない事がわかると、血相を変えて店を出ていった。何かただ事ではない様子だ。
その日は彼が毎年参加しているという大きな祭りの日で、彼は終日家族で過ごすはずと
我々は決めつけていた。我々の妄想の中で彼は妻子持ちで、神輿をかつぐのが大好きな
小学生のやんちゃ坊主がおり、この日は家族サービスのため落ち合うことはできない。
そのはずだった。
ところがその予想を裏切っての彼女の来店だったが、やはりいつもとは様子が違う。
ずいぶん後に彼が来るまで一人でお酒を飲んでいたが、その表情は文字通り虚ろで
もう別れたほうがいい、と自分は思った。
もちろん不倫というのは憶測でしかないし、そもそも不倫が悪いと決めつける訳ではない。
だがこの二年、雪や豪雨の土曜日もあった。そんな店を出たあとの夜道、ただの一度も
送ってくれない男性との付き合いはそもそもどうか。
彼は魅力的だが、諦めて他の人を探した方が賢明だ。ここのところ加齢のためか体型が
ゆるくなってきた彼女だ。新しい出会いに向かうなら少し絞ってもいい。だからいけない、
今注文した天ぷらはキャンセルして胡麻和えなんかにしたほうがいい。獺祭もおよしなさい。
日本酒ではなく焼酎焼酎。ほらほら炭水化物で〆ている場合じゃないから・・・・などなど
ただでさえ忙しい土曜日なのに、脳内が気ぜわしくてかなわない。また最近、お互い逆サイドに
きびすを返して別れるまで一連の流れを見ないと、気がすまないようになってしまい
すると仕事の手が止まるので店主(配偶者)に怒られるのでこっちも迷惑なのだ。
だから彼女にはここはひとつ、人助けだと思って一刻も早くその男性との別れ話を
進めてもらいたいと思っている。